第2話 お肌の手入れ(スキンケア)
しっとり肌の秘密

化粧品のコマーシャルには、「赤ちゃんのお肌のように」という言葉がよく使われます。赤ちゃんのしっとりとやわらかい肌に、女性はみんなあこがれるのでしょう。

赤ちゃんの肌がいつも潤ってつやつやしているのは、皮脂(あぶら)が皮膚にたっぷりしみ込んでいるからです。お母さんがお肌にオイルや油性クリームをたっぷりつけているのと同じ状態です。

赤ちゃんは、お母さんのおなかの中にいるときは、お母さんのからだから栄養をもらっていますが、お母さんのからだの中を流れている性ホルモンも、そのままもらっています。生まれてきた赤ちゃんは、このホルモンのおかげで毛穴からたくさん皮脂が出てくるので、肌がしっとりと…言い方を変えれば、油でギトギト…しているのです。

頭のかさぶた

赤ちゃんの皮膚からは、皮脂があとからあとからたくさん出てくるのですから、これを毎日洗い流してやらないとかたまって皮膚にこびりついてしまいます。皮脂がまゆ毛あたりや頭のてっぺんに黄色くかさぶたのようにかたまったりします。

皮脂のかたまりがいったんできてしまうと、洗っても洗ってもなかなかとれないもので、お母さんは、さては病気ではないかと思うのでしょう、病院に連れてきます。

私の住む地方では、おばあちゃんがこれを「胎毒じゃ」というものですから、お母さんはますます不安になってしまいます。でも、これは病気ではありません。

シャンプーや石けんを使って洗い流しましょう。皮脂がかたまってしまっていたら、まずベビーオイルをつけて1時間ほどふやけさせてからシャンプーで洗い流すとうまくいくと思います。爪でゴリゴリはがそうとすると肌がいたみますよ。

赤ちゃんの顔にもニキビができる

生後1か月の赤ちゃんの顔にニキビができることがあります。青春のシンボル、あのニキビが赤ちゃんにもできるなんて、にわかには信じられないでしょうが、赤ちゃんのおでこや頬にぷつぷつとできる黄色い吹き出ものは、あのニキビです。

赤ちゃんのからだの中にはお母さんからもらった性ホルモンが残っていて、ホルモンのバランスがうまくとれていません。思春期も性ホルモンが増えてくる時期で、ホルモンのバランスがうまくとれていません。よく似ていますね。

それで、思春期のニキビと同じものが赤ちゃんにも出てくる、というわけです。

このニキビには、薬をつけたりする必要はありません。いつも顔をよく洗っていれば、そのうち自然に消えます。赤ちゃんの、“つかの間の青春”です。

おむつかぶれは洗って治す

赤ちゃんの肌のトラブルで最も多いのは、何といってもおむつかぶれです。

ネパールの赤ちゃんには、おむつかぶれはないそうです。なぜか?ネパールではおむつをあてる習慣がなくて、いつもオッパッパーなんだそうで、それでおむつかぶれはない。なあんだ、当たり前じゃないの、ばかばかしい…と思いますか?

いいえ、ここが大事なところなんです。

おむつはおしっこやうんちが外にもれないようにとあてるものですから、おしりの皮膚は密室に閉じ込められているようなものです。そこにおしっこやうんちが出れば、おしりの皮膚はむれてふやけて、アンモニアなどの化学物質が働いて皮膚がいためつけられ、おむつかぶれができます。

おむつかぶれというと、何か特別な病気のように考えてしまいがちですが、おしりの肌の手入れが足りなかっただけです。

そうとわかれば、すぐにぬり薬に手を伸ばす前に、やっておくべきことがありますよね。それは…

  1. 一番大切なことは、“おむつをこまめにとり替える”ことです。

    最近の紙おむつは、とても優秀になって、おしりがいつもサラサラになっているように工夫されていますが、おむつを当てていることに変わりはありません。“長時間持ちます”という宣伝を信用し過ぎないように。

    また、ネパールの赤ちゃんの話を思い出して、オッパッパー・タイムを設けて、おしりのかげ干しをしてはどうでしょう。

  2. おしりについた“おしっこやうんちを十分にふきとる”こと

    おしりナップを使うことが多いようですが、拭くだけでは不十分です。と言ってごしごし拭いては、おしりの皮膚もいたみます。洗うことです。洗面器にお湯をはってジャブジャブと。

    おむつを替えるたびに洗っていれば、たいていのおむつかぶれは、薬なしでも治ってしまうほどです。

  3. ぬり薬は必ず小児科医の処方したものを使いましょう

    市販のぬり薬を自己流で使っていると、どうしても使い過ぎになり、かび皮膚炎などのよけいな病気をおこすこともあります。

皮膚がカサカサして ( かゆ ) そう

生後3か月をすぎると、お母さんからもらった性ホルモンの影響もなくなって皮脂の出かたが少なくなってきますから、ほどよく湿った皮膚になってきます。

でも、赤ちゃんによっては、乾燥しすぎてカサカサの肌になってくることがあります。乾燥して皮膚を顕微鏡で見ると、ひからびた田んぼが地割れをおこしたかのようです。

カサカサの皮膚というのは痒いもので、赤ちゃんは顔をお母さんの服にこすりつけるようにしたり、からだをもじもじと動かして落ち着かなくなります。

やがて皮膚が赤くなったりただれたりしてくると、アトピー性皮膚炎と診断されることでしょう。アトピー性皮膚炎は乾燥した皮膚がもとになってできたものです。

アトピー性皮膚炎はどうしてできるのですか?

アトピー性皮膚炎がどうして、どのようにしてできるのかは、まだよくわかっていません。

この子がアトピー性皮膚炎になったのに、あの子がならないのはどうしてか、というむずかしい質問です。「アトピー体質」の子がアトピー性皮膚炎になるのです、なんて言われたってわかったようでわかりません。このあたりを詮索しはじめると、収拾がつかなくなってくるんです。

「アレルギーと深い関係があるようです」と申し上げると、「じゃあどうして “アレルギー性皮膚炎” と言わずに “アトピー性皮膚炎” なんですか?」と細かく質問される方もいまして、「いやまあ、歴史的にCocaという人が…ああ…その…干したイカをスルメ呼ぶようなものでして…」と、タジタジになります。

お母さんに知っておいていただきたい大切なことは、アトピー性皮膚炎の子どもの半数以上は、食物アレルギーとは関係ない、という点です。

アトピー性皮膚炎と食物アレルギーとの関係については、医師の間でも議論の最中ですが、アトピー性皮膚炎=食物アレルギーとみなすのはちょっと乱暴だ、という点では意見が一致しています。

血液検査の結果だけを見て、厳しい食事制限をするのは考えものです。ましてお母さんの判断で、食事制限を始めるのはぶっそうですね。

詳しくは、『食物アレルギーとアトピー性皮膚炎』で説明しますので、ご覧ください。

アトピー性皮膚炎のお肌のお手入れ法は?

アトピー性皮膚炎の治療で一番大切なのは、毎日のスキンケア(お肌のお手入れ)です。

アトピー性皮膚炎は、乾燥した皮膚がもとになってできたものですから、オイルや保湿クリームをぬって、皮膚をしっとり潤った状態に保つことが治療の基本です。

汗をかいたり、よだれや食べ物が顔についたら、すぐに洗い流して軟膏をぬりましょう。

お風呂に入ったら、肌が乾ききらないうちに軟膏をぬる、という細かい心づかいも大切です。

アトピー性皮膚炎はとても痒いものですが、痒いからかく、かくと傷がついてただれる、よけい痒くなる、またかく、という悪循環になってしまいます。

こんなときも、すぐに薬に頼らずに、まず爪を切ってヤスリをかけ、ツルツルの爪にしてあげるだけでずいぶん楽になります。

チクチクする衣類を避け、厚着しないようにすることも大切です。

このようなスキンケアを十分にしたうえで、さらに軟膏やのみ薬が必要ならば、指示通りに使いましょう。食事制限が必要と診断された場合でも、このスキンケアをおろそかにしては効果も上がりません。

ルソーは「自然にかえれ」という言葉を残してくれました。赤ちゃんの肌を守るお母さんにこの味わい深い言葉をさし上げたいと思います。

あぶらぎった肌も、おむつかぶれも、アトピー性皮膚炎も、まずやさしく洗い流してやり、爪を切り、やわらかい肌着を着せる、という自然なお肌のお手入れだけで、ずいぶん楽にしてあげられるものです。

当たり前のことを、当たり前にやってあげるのが育児だろうと思います。

目次に戻る
  •  
赤ちゃんってふしぎ
inserted by FC2 system